相棒小説

やぁ読者諸君。我が輩はルゥラ嬢の相棒である。そう、あの鳥頭の杖だ。
相棒。文字通りパートナーであり。
“相棒”。頼れるマジックアイテムなのである。
そんな我が輩なのだが、普段はルゥラ嬢の部屋の片隅に放置されている身である。
それというのも……あんのボロ杖のど畜生めっ!

――失礼。我が輩とした事が、ついカッとなってしまったのである。
ルゥラ嬢は、幼い修行時代から使用している杖(ペンタクト)を普段使いに愛用しており、我が輩の事は使ってくれないのである。
ルゥラ嬢は既に”魔女”と呼んでも差し支えない実力を持っており、あの修行用の杖では物足りないはずなのであるが、それでもアイツは使われ続け、我が輩はルゥラ嬢の部屋の片隅で放置されるばかり。
アイツより魔力量、使用感、術力サポートも勝る一流アイテムの我が輩が……っ!
わ、我が輩、待遇の改善を要求するのである!

「クエーッ!」
「わー!」
「なんだ、また勝手に出てきたのか!」
抗議の叫びと共に部屋から飛び出したはいいものの、
皆、我が輩を見るなり何も言わずに実力行使である。
「ルゥラーっ! 相棒が暴れてるよ!?」
空カービィ殿、我が輩が言葉を介さないからといって、獣扱いするのは止めて欲しいのである。
「ケーッ!」
「わー! こっち来た!」
「今日は特に元気だな!」
隊員殿たちの攻撃をひらりひらりとかわす我が輩。
吾輩がルゥラ嬢の持ち物であるからだろう、皆の攻撃も遠慮が強い。我が輩が本気を出せばかわせる度合いである。
「待ちなさい! サーヒラス!」
なんの! と、我が輩は翼を羽ばたかせる。
フワリと高く飛び回避すると、ルゥラ嬢の持つ杖に突っ込む。
今日は我が輩、怒っているのである!
頭の角がぶつかり(勿論、ルゥラ嬢に当てるような馬鹿はしない)、ペンタクトが宙を舞い、軽快な音を立てて落ちた。
ペンタクトにはヒビが入っていた。我が輩の気分は高揚する。
これでルゥラ嬢も我が輩を使ってくれるはずである!
ワクワクしながらルゥラ嬢を見ると、杖を抱き締めて呆然としていた。その表情を目にとめ、我が輩の情動は一変する。
声をかける前に、ルゥラ嬢は杖を抱えたまま涙目で走り去ってしまった。
我が輩は追おうとしたが、探検隊の隊員殿たちに苦い顔で掴まえられてできなかった。
しょげながら部屋の定位置に戻る。
床に顔を伏せたまま考えぬいたところ、唐突に理解した。
おそらくあの杖とルゥラ嬢には、我が輩が知らない、何か特別な繋がりがあるのだろう。
自我も魔力も無いアイツが持つ”何か”が、我が親愛なるルゥラ嬢の心を惹き付けて止まないようなのであった。
つまり我が輩がどれほど優秀であろうと、アイツには勝てない道理なのである。
そして主人がそれほど大切に思っているものを壊した、などというのは、
“相棒”失格である。

夜。赤い目のまま眠ってしまったルゥラ嬢のすぐ側にペンタクトが立て掛けられている。
その横に、我が輩は静かに降り立った。
我が輩。マジックアイテムであるからして、多少は不思議な力が使えるのである。

明朝。ルゥラ嬢が目を覚まし、ひび割れの治ったペンタクトを発見した。
ルゥラ嬢が驚いた様相でこちらを見たが、我が輩は部屋の隅に鎮座ましまして返事は返さない。
無言でここに佇むことが、昨日の謝罪になるつもりでいるし、ルゥラ嬢の思うようにすればよいという意思表示でもあるのである。
ルゥラ嬢が我が輩を撫で、礼の言葉を言って、アイツを手に部屋の外へ駆けていく。元気が戻ったようでホッとする我が輩である。
我が輩はルゥラ嬢の相棒である。
がしかし、我が輩にとってはルゥラ嬢が、”相棒”なのである。
だから今日も我が輩は、ルゥラ嬢の部屋の片隅で、いつか手に取られる刻を静かに待つのである。

Thanks!≫mecycle様

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