僕は“ぽっぷ”
とある星で、支配者生活をしています。
けれど今日は、そんな支配者の仕事もお休み。
涼しい風が通り抜ける丘の上で、住民のワドルドゥ、ワドルディ達と集まって、お団子を並べてお茶を楽しんでおります。
夜空にはみごとな満月が浮かんでいます。
「満月はキレイだし、お団子も美味しい」
お茶をいっぷく飲んで、ため息をつきます。
「雅だねえ」
「ですな!」
ワドルドゥさんがお団子を頬張って言います。
「この時期は食べ物がいちばん美味しくなりますので、
月がごはんをたくさん食べてまるく太るのです。
だからお月見は、いつも食べている食べ物に感謝する日でもあるのですな」
「え、月の満ち欠けってそういうメカニズムだったの?」
びっくりです。道理で月齢が不規則な訳でした。
「月がこれほど見事に丸くなるのは、この時期だけなんですよ」
「年中丸いとメタボっちゃうもんねえ」
ほんわかしながら、ワドルドゥさんの雑学を聞いていた時でした。
きゅいいいいん!と空気を切り裂くような音がして、あたりを見回す隙もなく目の前の地面がドォーン!と弾けました。一瞬夜空を覆い隠すほどの土埃が上がります。食べ物類はワドルディさん達が人海戦術で覆ったので無事でした。
「な、なんだ?」
慌てて帽子を脱いで、土埃をすべて吸い込みます。
晴れた視界に現れたのは、地面に蹲ったまあるい姿のおおきな真円。
お月様でした。
夜空を見上げると、さっきまで浮かんでいた月が消えています。どうやら目の前の方、本物のお月様のようです。
そんなお月様は、地面に顔を伏せたまま。大きな声で、
「もう嫌だー!」
と叫んだのでした。
—
「つまり、お月見されるのがもう嫌だと?」
「そうなんだよぅぅ」
お茶とお団子を伴に、あおぞらカウンセリング中なのでした。
月さんのお話を要約いたしますと、
最初は、美味しい食べ物を好きに楽しんで好きに太っていたのですが、
皆さんがお月見を楽しみにしていると知り、毎年この時期にたくさん食べ物を食べて太るように心がけるようになって ――いつの間にかそれが義務みたいになっているのがお嫌なんだとか。
「元々あなたが自分で太りだしたんでしょうに」
「自分の好きでやるのと義務でやるのとは違うんだよぉぉぉ」
気持ちは分からないでもありません。
けれど困りました、 お月見はとっても素敵な行事です――カービィ的に、美味しい食べ物が頂ける行事は無くしたくありません。
たくさん食べるのはお嫌いではないようですし、できれば月さんには立ち直って頂きたいのですが……。
地面をどしどし叩く月さんにどう声を掛けるべきか悩んでいた、その時でした。
あたりに、夜闇を割るような声が響きます。
「ああっ!こんな所にいやがったか!」
続いてきゅいいいん、ドーン、土埃。以下略。
現れたのは、あたり一帯をまばゆく照らしあげる大きな光球さんでした。
「月見の日に月がいなくなってどうするんだっ!」
「た、太陽!」
太陽さんまで来ちゃいましたかー。
「まったくオマエはすぐそうやって!」
「太陽さん、光量落としてください。夜空が見えない」
「あ、すまねえ」
太陽さんの発する光が、照明塔レベルから蛍光灯くらいになりました。
とりあえず僕はワドルディ達に、月は無いけど好きにくつろぐように指示を飛ばします。
その間も、太陽さんと月さんの口論は続いています。
「楽しみにしているひともいるんだから中途半端にやめるな!」
「うるさい僕のつらさもわからないくせに勝手なことを言わないでくれ!」
太陽さんは熱血義理堅い性格で、月さんはちょっとナイーブな性格のようです。
「仲裁するべきですかな?」
「かなあ」
生返事を返しながら、僕はちょっと考え込みます。
太陽さんも月さんもここにいるという事は、いま星の反対側は完全に真っ暗じゃ……?
……うん、考えるのはやめておきましょう。僕がどうこうできることでもないですし。
「わにゃ」
ワドルディのひとりが僕の尻尾の端を引っ張ります。
どうしたの、と問うと、ワドルディは上を指し示しました。その手の軌道をなぞって天を見上げて、僕は驚きの声を上げました。
雲ひとつない澄み切った夜空に、数え切れないほどの星が輝いています。そのまま落ちてきそうな無窮のきらめき。銀河をそのまま撒いたような、こぼれんばかりの星の海でした。
月さんと太陽さんのほうを見れば、いつの間にか月さんも落ち着いたようです。今は月さんによる愚痴トークがしんみり続いているようでした。
ワドルドゥさんが困ったように話しかけてきます。
「どうなさいますかな、ぽっぷ様? とりあえず夜空にお帰り頂きますか?」
「うーん」
僕は頭上を見上げます。ああ、星の海みたいな見事な夜空。
「こういう時は愚痴を吐き出し終わるのを待つほうがいいんじゃない?
甘酒でも出したげて。お団子も」
「かしこまりました!」
「わにゃ!」
ワドルディ達が、食べ物の乗ったお盆を掲げて月さんと太陽さんのほうへ走っていきます。
僕はもういちど夜空を見上げてから、お団子をもうひとつ、ぱくり。
お空の上のまんまるより、お皿の上のまんまる。
花より団子な花鳥風月です。
「あー、美味しい」
おわり