「そうだ! パーを出すから負けるんだ!」
-最初はグー-
いきなりそう叫んだ郁を、ミントが振り返る。ミントにつつかれてライも振り返り、何事かとヘッドホンを外す。
「なんの話?」
口元に生クリームをつけたまま、ミントが問う。
「自分がいつも同じ手だって話。」
振り返った二人の手元を恨めしげに眺め。
郁が、そう言い切る。
おやつの残りを争奪するじゃんけん大会。
郁は必ずパーを出す。
「そうですけど……」
「知らなかったわけ?」
「知ってたのか!?」
無言で頷く二人。シュークリームは既に腹の中。
「くっ……」
項垂れた郁。しかし2秒で復活し、
決意に満ちた目で拳をつき上げた。
「次は必ずグーを出すっ!」
ライとミントが、同時に顔を見合わせた。
「それ……公言しちゃったら、駄目なんじゃないですか?;」
「Σはっ!」
口に手を当てるも、時すでに遅し。
不覚、といった風に頭を垂れた郁だが。
数秒もしないうちに顔を上げ、
「くっ……! 見てろよお前ら! 次は絶対に勝つからなーっ!」
言い捨てて走り出ていった。
「ね、ライ。」
「……なんでしょう。」
口元の生クリームを拭ってから、ミントがライに言う。
「あいつ、次は絶対チョキ出すよね。」
「……ですね。」